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エンタメわっしょい

来日公演「キンキーブーツ」感想 ~Just Be Who You Wanna Be~

キンキーブーツ
(原題:Kinky Boots)

原作:映画「キンキーブーツ」



脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル

公式サイト
http://www.kinkyboots2016.jp/

公式PR動画



あらすじ
経営不振に陥った老舗の靴工場の跡取り息子チャーリーが、ドラァグクイーンであるローラに出会い、差別や偏見を捨てて、ドラァグクイーン専門の靴工場として再生しようとする

感想
ミュージカル「キンキーブーツ」を観るのは今回で3回目である。1回目はロンドンでウェストエンド版を、2回目は大阪で日本公演版を、そして今回の来日公演(アメリカツアーカンパニー)。ちなみに前回観た日本公演版の感想はこちらにあるのでよかったらどうぞ。

どうしても3回目になるので、物語についての驚きや発見などは少なくなってしまうのだがそれでも素晴らしかった。日本公演版の「楽しまなかったら殺す」という今にも沸騰しそうな殺気溢れる空気感も好きだが、今回の来日公演の温かな空気感もとても好みだった。同じ演目なのにここまで空気感が違うのも面白い発見だと思う。

当たり前といえば当たり前だが、英語で作られた曲を英語で歌うことのなんてしっくりくることか。ミュージカルで(というより音楽全般で)日本語の音節と外国で作られた音符を合わせるのはとても難しく、文字数にするとかなりの量が削られる。必然的に1曲に含まれる情報量も少なくなる。よって、今回の公演を経て「キンキーブーツ」という作品をよりよく学ぶことができた。外国から日本へ輸入され、日本語で上演されているミュージカルを決して下げるわけではない。食べ物で例えると、本家本元で作られた外国産のクッキーと日本で作られアレンジされたクッキーみたいなものである。どちらも美味しいしどちらも素敵だ。勿論、個人的な嗜好があるので日本語ミュージカルはどうしても合わないという人もいるだろうし、逆もいるだろう。どうでもいいが私はレバーとパクチーが苦手でどうしても食べれないがレバーとパクチーが大好きという人もいると知っている。どうアレンジして食べても頑張れなかった。食べることが大好きな私ではあるが、どうしようもない悲しい事実である。話が逸れたが、私3ヶ国のキンキーブーツが大好きだ。愛をもって作り上げられた作品はそれぞれに美しく、素晴らしい。

にしてもアメリカツアーカンパニーのローラは素晴らしかった(J.Harisson Ghee )。ヒールを履くと2mは軽く超えているであろう長身、全身から轟くスティービー・ワンダーを彷彿とさせるような遊び心のある歌声と圧倒的なスターオーラ。「Sex In The Heel(セックスはヒールにある)」で魅せるグラマラスでパワフルな女性的魅力も「What A Woman Wants(女性が求めるもの)」で魅せるスマートで包容力のある男性的な魅力も併せ持つ彼女は「男性でも女性でもなく、どちらか決めかねている」のではなく、「魅力的な男性でもあり魅力的な女性でもある」人物なのである。性別を超越するのではなく、その両方とどちらでもない何かも全て包み込んで許容してしまうような懐の広さと深さがうかがえる。この作品自体が男性性と女性性の窮屈さと矛盾を明るく描いているのだが、その中でも彼の演じるローラは「どちらでも素敵よ!」というメッセージを表してくれる。一人の人間としてそのパワフルな魅力をもって有無を言わさずに証明してしまうようなローラだった。余談ではあるがローラのナンバーが結構ブラックミュージックを意識して作られていることも彼のローラで知ることができた。「Hold Me In Your Heart(心で抱きしめて)」はミュージカル「ドリームガールズ」の「And I Am Telling You(そして貴方に言うの)」に構図と曲調が似ているなと思ったが自分の心情を吐露するように歌うソロナンバーは沢山ほかにもあるだろうから自分の中のサンプルが少ないだけだろう。


冒頭で歌われる「The Most Beautiful Thing in the World(世界で一番美しくて素敵なもの)」でチャーリーは子供時代から大人になるまで「チャーリー、靴は素敵なものだよ。」と工場で働く周りの人たちに愛情を注がれながら成長する。この物語は主人公であるチャーリーが成長する物語でもあるが、いつも彼を温かく見守り、手助けし続ける家族達の物語でもある。世界で一番美しいもの(靴)を作り続ける工場は同時に愛情という世界で一番美しくて見えないものも作り続けている。つまり私は最初から号泣する。そして隣の観客にギョッとされるので少々恥ずかしいがどうしようもなく泣いてしまう。愛のある世界は美しい。

ローラのことを先ほど書いたが、このミュージカルの最大の見せ場はローラを含めたドラァグクイーン達のナンバーパフォーマンスだろう。来日カンパニーのエンジェルズ(ローラ率いるドラァグクイーン達)の恵まれた長身と美しく鍛えられた肉体は存在だけでとてもエネルギッシュだ。舞台ではやはり「大きい」ということがかなり優位に働くのだなあと感じた。何よりファッションの聖地でもあるロンドンで買い付けているのであろう衣装もどれも色鮮やかで美しい。彼女たち(彼ら)のセリフは少ないが今の自分に自信をもって楽しく生きている人物はローラ同様に性別関係なく、生命力に満ち溢れていて見ているだけでこちらまで元気になってしまうのだ。

このミュージカルの根底に常に流れているテーマは「Just Be Who You Wanna Be(なりたい自分になればいい)」というポジティブでシンプルなメッセージである。オシャレもメイクも人生の選択でさえも誰かのためでもなく、なりたい自分へなるための手段である。そこに性別も年齢も生まれた土地も関係ない。いかに自分が自分の中にある偏見に縛られて毎日を過ごしていたのだろうと思う。

ミュージカルという文化自体を「人生の応援歌」であると書いた文筆家がいたが、このミュージカルはまさにそうした作品のひとつではないだろうか。カーテンコール中に目の前の男性2人組がたまらなくなって急に立ち上がり、ぎこちないながら、キャストの動きをまねてとても楽しそうに踊ったり手を振ったりしていたのを見て私は感動で胸がいっぱいになってしまった。終演後に後ろの年配のご夫婦が興奮冷めやらぬといったかんじで「ブロードウェイはエネルギッシュやなあ!最高や!」と会話していた。こういうこともあるから観劇はやめられない。


今の世界を裸足で歩くには危険すぎる。どこかでガラスの破片を踏んでしまうかもしれないし、水たまりだってあるだろう。だからこそ、我々は靴を履くのである。自分のお気に入りの靴を履いて「私はどこにだって行ける」と胸を張って前へ歩いていく。それがどんなに当たり前でどれだけ素敵なことか。


来日公演「キンキーブーツ」もスーパーホットだった!最高!

日本公演版のキンキーブーツの音源CDも発売決定したぞ!
ハッピーーーーーーーー!!!!!!