アトラクション感覚でネイルに行ってきたはなし


アトラクション感覚でネイルに行ってきたはなし


私は身だしなみに関してとことん無頓着な人間である。主な趣味は観劇なのでそちらにお金を使いたいし同じ価格なら1枚のワンピースよりも1枚のチケットの方がいい。服はよそ行きの服が何枚かあればいいし流行とか何ソレ美味しいの?レベルなので持っている服が驚くほど少ない。化粧品もほとんどドラッグストアで購入するのでファンデーションの色はきっと合ってないだろう。ましてやネイルなんて私にとってのいらないものランキングで堂々トップ10入りするようなものだった。食べ物を扱うような仕事をしていたのでできなかったというのもあるが(現在無職)。まあ、こんな具合なので我ながら「もうちょっとオシャレしてもいいんじゃないの?でもお金がなあ…。チケットまた買うやつあるし…。なによりオシャレってしなくてもよくない?面倒くさいし。」と常々思っていた。面倒くさいのはお前の方だと今なら言えるが、よくわからない理由をつけて嫌だ嫌だとオシャレや美容から敬遠していたように思う。


先日、10年以上付き合いのある友人Sと食事をしていると彼女がめずらしくネイルをしていたので不思議に思って聞いてみた。彼女も私と同じで「オシャレするのもいいけど趣味に投資したい!」な人種だ。「あれ?ネイルなんてするような人だった?」と聞いた。するとニコニコしながら「かわいいでしょ。」と、ネイルがよく見えるようにきちんと両手を揃えて私の前に置いてきた。水色を基調としたデザインで爪の先端には雪の結晶のようなものがついている。なるほど、確かに可愛い。でも私が聞きたいのはそこではない。


「かわいいね。でもなんで?」

「うーん。爪って自分のパーツの中で1番無意識に見てるところでしょ?だから爪を可愛くしてると目に入るたびに『かわいい!嬉しい!』って何か嬉しい気持ちになれるよ。あと次のネイルをどうしようかなあとか考えるのが楽しい。」

そう笑顔で語る彼女はとても可愛く見えた。自分の爪を見る。何も塗っていなければ形も整ってない爪だ。爪を切るときも面倒くさがって限界まで深爪にするので長さだってバラバラである。ふむ。


家に帰ってから別の友人に連絡してみた。

「Kちゃんって春くらいからネイルの勉強してなかったっけ?」

「そだよー。」

「やってくれない?」

「いいよー。やりたいデザインとかある?」


というわけでやってもらった。

ネイルがどういうものなのか気になったのである。感覚でいうとディズニーやUSJの新アトラクションに乗る感覚である。「どんなものなのか体験したい」というものだ。


ちなみにオーダーは「赤っぽい色のシンプルなやつでワンポイント的なポッチリがほしい」というものである。ありがとうKちゃん。彼女はネイルのスクールに通っていて将来は自分のネイルサロンを開くのが夢だそうだ。彼女の夢が叶うことを私も願っている。


あとネイルケア?というものもやってもらった。爪の形を整えてもらったり甘皮を何だかよくわからない棒でグイグイと押し込まれよくわからないハサミのようなもので切ってもらった。彼女いわくネイルケアをきちんとすると自然と爪が綺麗になるらしいとのことでジェルネイルやポリッシュなどのネイルアートをしない人でも気軽にネイルサロンに行ってほしいとのことだ。


ネイルケアとネイルアートをしてもらって全部で1時間ちょっとくらい。自分のためだけにかける1時間ってなんかいいなあ。勝手にネイルアートやそれを取り巻く環境(ネイルサロンなど)をキラキラした女の子の特権のものだと思っていたけれど全然そんなことはなくて、施術は専門技術の塊だしプロの仕事は見ていて興味深かった。施術が終わってKちゃんとお茶に行った。


「可愛くしてくれてありがとう。またお願いします。」

「どういたしまして。こちらこそまたさせてね。」

「ネイルしたことなかったから勝手に偏見持ってた。なんかいいなあってなった。」

「でしょう?それに爪を可愛くしてると普段の手の動きもちょっと気にするようになるから爪だけじゃなくて全体が女の子らしくなるんだよ。」

「そうなの?」

「そうだよ。その『なんかいいなあ』って気分を大事にしてね。」

「わかった。」


帰宅する。爪を見る。可愛い。

なんてことない、爪を可愛くしてもらっただけだ。クローゼットは相変わらずスカスカだし、化粧品だっていつ買ったのかわからないようなものが転がっている。パソコンを開く、爪が目に入る。可愛い。なんかいいなあ。この「私だってきちんとしてる!」という自己肯定感。自分好みのものが常に傍にいる感じも。たかが爪だ。されど爪だ。自分という人間を構成する一部だ。私は自分のことがあまり好きではなくて自己卑下傾向があるのだが、今のこの可愛い爪をしている自分はちょっと好きだ。なるほど。こういうことか。


ネイルは男ウケが悪いだとかキラキラ女子の特権だとか自意識をこじらせた趣味大好き人間が行ったら追い出されるとか勝手なイメージばかりを持っていたが、そんなことはなかった。ネイルは自分を好きになるための一つのハッピーツールだったのだ。そもそもオシャレだって美容だって他人のためではなく自分のためにするものだ。そうか。



ネイルはいいぞ