NTlive「エンジェルス・イン・アメリカ 第ニ部 ペレストロイカ」感想 〜 過去から未来へ贈る祝福 〜

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「でも生きてます。」

 

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あらすじ

エイズクライシス真っ只中の1980年代ニューヨーク。ゲイカップルのルイスとプライアー、弁護士であることに固執するロイ・コーン、セックスレスの夫婦であるジョーとハーパー。彼らを取り巻く人間関係や当時のアメリカの社会背景、失望、葛藤、偏見を描く。

 

感想

天使から預言者として与えられた本を返しに行ったプライアーは天使たちに向かってあれやこれやと御託を並べた後に「でも生きてます。」と述べる。天使に「動くな」と警告された上での言葉だ。人類に対して動くな、進歩するな、耐えろという神からの掲示を一言で彼は拒絶する。最愛の人が自分のもとから離れようと、エイズという死の病に侵されながらも彼は生きているとはっきりと言った。

 この1部の感想で私はこの作品のキャラクターたちについて「己にとってより良くあろうと生きてきたはずの人達がまるで球体のパズルを完成させるピースのように思える。そしてその最後の一欠片が埋まらないまま手の中で消えていってしまう病魔の無情さ。」と書いていたのだが2部を観たあとではその最後のピースはこの作品を観ている観客それぞれに与えられていたことに気づく。キャラクターたちが己の内側へと突き進んでいくと思いきや最後には作品の世界を飛び越え、観客の前に立ち、生きていることへの賛美と祝福を与える。「あなたたちは生きている」と。

作品に登場するプライアーをはじめとするキャラクターは0から生まれた創作物ではない。間違いなくあの時代にいた彼らだ。おぞましいほどの数の人間がエイズで命を落とし、それに恐怖し、共に寄り添い絶望と戦った彼らの物語である。あまりにも死と絶望が側にあるクライシスの時代で彼らは死んでいたのではない。命の炎を燃やしながら生きていた。

舞台演劇は生きている人間たちによる共同制作物だ。たとえそれが1人の人間が歩いて別の人間がそれを見ることによって成立する究極の場合であっても生きている人間が演技し、それを生きている人間が見ることでしか舞台演劇は成立しない。物語を書く人も演出や演技をする人たちも生きている。そしてどんなに古い物語や演出プランであったとしても、作者がこの世からいなくなっていたとしても、作品は人間が生きた証拠に他ならない。

HIVの治療法は年々進歩していて同性愛への理解も彼らの時代より進んでいる。だからといってエイズクライシスの時代が消えてなくなったわけではない。今も続く地続きの歴史だ。世界は常に危機に晒されているが、あの時代に生きた彼らからのメッセージを今度は私が未来へと繋いでいきたいと思う。