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エンタメわっしょい

ミュージカル「CHESS」感想 〜私とサマンサの話〜

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私とサマンサ・バークスの話をさせてほしい。私が彼女のことを知ったのは映画「レ・ミゼラブル」(2012)を映画館で観たからなのだが、初めてレミゼを観たときは雷に撃たれたような衝撃であまりの感動に鑑賞後ずっと絶句したままだったことを昨日のように覚えている。美しい音楽や俳優たちが紡ぎだすキャラクターたちの人生。激動の時代を描きながら作品の根底にはずっと愛が絶え間なく流れていて「このミュージカルを知らなかった私は何をして生きてきたのか?」と思うほど。今までの人生でこんなことは経験したことがなく、心が震えるどころか魂を鷲掴みにされるような感覚だった。そういえば鑑賞中に心臓がギュッとなって息苦しくなって驚いたのだが、集中しすぎて呼吸を忘れていたのだった。友人と観に行ったのだがあまりにも感動しすぎてようやく「よかったね…」と言葉を喉から絞り出すまで1時間くらいかかっていたように思う。そこからは気が狂ったようにレミゼオタクになった。俳優たちのSNSをフォローし、レミゼの原作を読み、海外のファンガールたちのTumblrを追いかけ、暇さえあればレミゼに関するものを検索して漁りまくった。そのときはアンジョルラス役のアーロン・トヴェイトに夢中になっていて(今も大好きです)、彼のことを追いかけつつ他のキャストを追いかけるみたいな生活だったのだが、1枚の写真をキッカケに私はエポニーヌ役のサマンサ・バークスにハマることになる。

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コチラ

めっっっっちゃ可愛くないですか?可愛いです。めっっっっちゃ可愛いです。満面の笑みでサムズアップするサマンサめっちゃ可愛い天使女神最高。可愛すぎる美しい最高。人が笑顔になることに「花笑む」という言葉を当てることが稀にあるが彼女の笑顔は本当に花が満開になるようなものだとおもう。初めてこの写真を見たときにはツイッターで叫びまくっていたし自宅でも床で「サマンサさんめっちゃ可愛い」と転がっていた。その様子を冷ややかな目で見ていた親には軽く心配された。大丈夫。元気です。

案の定、めでたくサマンサのファンガールになった私は彼女の経歴を調べたり、ファンレターを送り、誕生日には花を贈ったりするようなやや愛が重めのファンになるのだが、それはちょっと今回置いておこう。

サマンサのことを日本の方々に知ってほしいので簡単にだが、彼女の経歴を紹介する。

 

サマンサ・バークス(Samantha Barks)

1990年10月2日生まれの現在29歳

マン島という小さな島で産まれた彼女は16歳で島を離れて島を離れてミュージカル女優への道を歩むことになる。

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マン島はここだよ。覚えてね。

17〜18歳の頃にオーディション番組「I'd do anything」に(ミュージカル「オリバー!」のナンシー役のオーディション番組)サマンサは参加するのだが、最年少ファイナリストとして残った。

当時のサマンサ。歌が上手い。

それからいろんな役を演じて彼女自身の代表作である「レ・ミゼラブル」でエポニーヌをクイーンシアターで演じ、「レ・ミゼラブル 25周年記念コンサート」のエポニーヌに抜擢された。それから映画のエポニーヌにも抜擢されたのだが、今思うとヒュー・ジャックマンアン・ハサウェイなどの誰もが知るような映画の大スターたちの中にサマンサが主要キャラクターとしてキャスティングされたのって天啓なんじゃないか。

何も言わずにこの彼女のパフォーマンスを見てほしい。私は何度見ても感動して心の奥底から温かい何かが湧き上がってくるような感覚になる。

ロンドンからはるか離れたマン島で生まれ、ミュージカルが好きで音楽が好きでずっと走ってきたサマンサ。今ではオンブロードウェイの主役を演じるまでになった。しかもミュージカル「プリティ・ウーマン」のビビアンですよ。映画ではジュリア・ロバーツがやったあの役ですよ。

見て。この素晴らしいツーショット。

 

そして今度はウェストエンドでミュージカル版「FROZEN」(アナと雪の女王)のエルサにキャスティングされた。なんということ。

こう書くと彼女のキャリアは順調に思えるかもしれないが、それは彼女の努力の賜物である。あと映画の撮影が全部終わってプロモーションにまで参加してたのに出演シーン全カットされたやつとか、ワークショップとトライアル公演では主演を務めていたのにブロードウェイの本公演では別の人がキャスティングされたりとかもあった。すごく辛かった。私が。

さて、私がサマンサを好きなのは様々な理由があり、それこそ両手足の指の数でも足りないくらいだが、やはり彼女の笑顔と彼女人柄に惹かれているのが大きいのだと思う。サマンサはすごい。私はサマンサを知ってかれこれ6年間ほど彼女のファンガールだが、彼女が今まで泣き言や愚痴をSNSに書き込んだのを見たことがない。なにかのインタビューで「ネガティブなことはあまり考えない。何かあったとしてもそこで自分に出来ることがあると思うから」みたいなことを言っていて豆腐メンタルの私は(豆腐は美味しくて素晴らしい食材です。)、「ひええええ」と舌を巻いてしまったのだけど、彼女はまさしく言葉どおりの人で、以前ほど頻繁に更新することはなくなったけど、SNS上の彼女はいつも笑顔で楽しそうだ。あと家族や友人を大切にしている様子が伺える投稿が多いのも好きだ。そしてミュージカルを愛し、愛され、自分の才能に奢ることなくひたむきに努力を重ねている人だと思う。サマンサのことが好きで「ロンドンでミュージカル 「City of Angels」に出るよ!」と言われたときは、まだパスポートも持ってないのにロンドンに行くことを決意して舞台のチケットを取り、初海外初1人旅かつ個人手配という怖いもの知らずな旅を実行することになる。大学最後の年かつ国家試験を控えていたけれどバイトを入れまくって死ぬほど働いて資金をなんとか作った。夏休み丸々1ヶ月間働いた。朝はカフェで働いて夜は居酒屋で働いた。休みが1ヶ月の間に2日しかなくて倒れるかと思った。実際倒れた。

 

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やったー!ロンドン来れたー!の写真

 

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そんなこんなで来たぜロンドン。観たぜCity of Angels。めちゃくちゃ予習して観たので内容の理解がしやすく、演出も楽しめてよかった。サマンサはキュートでセクシーでいたずらっ子なキャラクターで最高だった。ステージドアに並んでサインももらったしツーショットも撮ってもらった。死ぬほど可愛かった。想像してたどおり素敵な人で想像以上にワンダフルで親切な人だった。「日本から来たよ」というと目をまん丸にして驚いたサマンサは超可愛かった。サマンサ超可愛い。ちなみにサマンサへのメッセージをTLで募り、メッセージボードを作成して渡したのだが今思うと恥ずかしい。大丈夫だったかな…。

サマンサとツーショットを撮ったことも初めてロンドンで観たミュージカルも私の人生を丸ごと更新してしまうほど素晴らしいものだったが、なにより「好きという気持ちを信じて1人で手配して遠くへ行ったこと」が自分にとってかなり大きな経験になったように思う。世界は広かった。そして美しかった。あと「自分の人生を自分でコントロールできている」のような全能感に近い感覚を得ることができた。そしてもちろんロンドンのことは大好きになった。それから3年連続で1人でロンドン行ってフォロワーさんとご飯を食べたり一緒に観劇したりしたし、ミュージカルや舞台のことも更に「色んなものが観たい!」という気持ちが強くなって年間に50本ほど劇場へ足を運んでいた年もあった。お金はあっという間になくなったけれど、映画「レ・ミゼラブル」とサマンサは間違いなく私の人生を大きく、よりよく変えてくれたのだった。

チェスの話を少しもしないまま自分とサマンサの話で3300文字ですがここまで読んでくださった皆様、大丈夫でしょうか。何が大丈夫で何が大丈夫でないのかはよくわからないが。

…続ける。

当たり前だがサマンサの拠点はロンドンまたはニューヨークで、日本に住む私は彼女の情報やパフォーマンスに触れる機会は少ない。サマンサがBBCのラジオに15分だけDJとして出るよと言われたときは朝の5時に(ロンドンとの圧倒的時差)、BBCにラジオのチャンネルを合わせてサマンサの声を聴いていたこともある。愛が重い。

サマンサを好きになって6年間、いや、今は7年間くらいになるのか。当時大学生だった私は社会人になり、2回転職したし恋人ができてその人と結婚もした。あゝ人生よ。彼女が舞台に立つたびに航空券買って飛ぶ!ということはなかったし、私も他に色んなものにハマったりしていたので以前ほどのファン活動はしなくなったもののサマンサのSNSをチェックすることはやめなかったし、彼女の新しい仕事の話を目にするたびに「よかったねぇ」と喜んでいた。

そんなある日、梅田芸術劇場で上演される「CHESS THE MUSICAL」にサマンサが出演するとのツイートを見た。サマンサが、サマンサが、日本に来る。しかも東京だけでなく大阪にも。

来ちゃったよ。来ちゃってるよ…。

サマンサの出演決定のニュースを見たときは夕食を食べていた最中だったように思うのだが、あまりのことにスマホを掴んだまま立ち上がり、20分ほどツイッターを直立不動のまま凝視して心のままツイートで叫び散らしていた。隣でご飯を美味しそうに食べていた恋人に「私は今までのオタク人生で1番心が乱れているので30分は放っておいてほしい。1人にして。」と突然言い放ち、チケットの購入方法やら休暇の申請に頭をフル回転させていた。

あとサマンサの来日ニュースにつきましてTLの色んな方々からお祝いのお言葉を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

感想

本プロダクションは、ABBAのバニー・アンダーソン、ビョルン・ウルヴァース作曲、ティム・ライス原案・作詞のミュージカル「CHESS」をロンドン初演版台本を用いて新たに演出し直したものであるが、いわゆるコンサート版でありながらダンスや舞台演出、ストーリーも楽しめるというものである。ステージの真ん中に大きな階段を設置して後ろにオーケストラ、上にスクリーンがあって両サイドに日本語字幕が出るようになっていた。演出手法としては、アルバートホールで行われたコンサート版やアリーナツアー版「ジーザス・クライスト=スーパースター」が近いものだと思う。映像演出によって時代背景やキャラクターの心情を表現するので、冷戦時代のことやハンガリー動乱のことはわかりやすくなっていたものの、洗練されているものもあればカラオケのイメージ映像のようなものもあり、正直なところ「ここにこの映像はいらないだろ」と思うシーンもいくつかあった。アナトリーやルークが自分の心情を吐露するソロでせっかく素晴らしい歌唱を披露しているのに後ろにクルクルと変わっていく映像があることにより観る側の視線があちらこちらに移動してしまうのは惜しい。

CHESSはジーザス・クライスト=スーパースター(以下JCSと表記)と同様にコンセプトアルバムからスタートした作品であるが、JCSとは違い決まりきった台本がないので、各プロダクションによって楽曲がカットされたり台本が書き足されたりするミュージカルにしては珍しいものパターンだと思う。今回のプロダクションもウォルターが丸々いなくなっていたりラストシーンも大きく改変されていて、「東西の冷戦によって翻弄され、別れてしまった恋人たち」というよりただの不倫の三角関係になっていた。フローレンスの父親の伏線も回収されず、アナトリーは妻子供を捨てて愛人と逃亡したが結局は家族の元に帰るという自由っぷりである。やりたい放題か。フローレンスの父親の伏線があってアナトリーが「自分が帰国すれば彼女の父親が助かる」と思って行動するくだりはどこへ行っちゃったの?「君を大事にする方法がわからない」と歌っていたのはそのくだりがあったからじゃないの?あと最終決戦のときに敵側が写真をチラつかせてアナトリーの動揺を誘っていたがその写真の中身がわかりにくい(フローレンスの父親なのかアナトリーの子供なのかわからない。実際はアナトリーの子供だったらしいが)。

つまり、楽曲やキャストのパフォーマンスは素晴らしいものの肝心のストーリーが荒っぽく進み、キャラクターたちの行動は突発的でわかりにくく、各シーンがブツ切りになっている印象を受けた。なので本ミュージカル全体を通して得られる感動はあまりなく、「あのキャストのあの歌がよかった」のような感想が出てくるばかりである。カットするところとしないところはもうちょっと選ぼうよ。

カットするしないの話になったので2幕のオープニング(One Night In Bangkok)の話をする。あれは全部カットでもよかった。「アナトリーが亡命してから1年後だよ。タイのバンコクでチェスの試合が行われるよ」というシーンでバンコクがいかに楽園のような場所なのかを歌われる。

ひどかった。手足を露出した女性ダンサーが腰をくねらせてセクシーなダンスを披露しながら「バンコクの夜では貴方の思い通り」と売春宿の娼婦を思わせる歌詞を歌い、背景にある舞台映像では女性の身体の形をしたネオンが次々と現れる。ドン引きしながら観ていると映像が白黒のブロックチェックになり、3Dモデルの女性の裸体がうねうねと動いていて更に引いた。なんだこのミス・サイゴン。韓国でSEKAI NO OWARIのツアーセットが大問題になっていたこともまだ記憶に新しいというのに、この演出や楽曲を使うことについて誰も止めなかったのだろうか。

 

と、ここまで書いて、「サマンサを観るためにロンドやニューヨークに行くことを考えたら安いよね。そうだ東京のチェスも行こう。」と東京でも観劇したのだが、あまりにも演出が大阪と東京で変わっていたので驚いた。

・Difficult and Dangerous Timeの導入シーンのカット(Arbiterの前だったかも)

モロコフとフローレンスがセコンドとして相手チームの不備を指摘するシーンがなくなっていた。モロコフはともかくフローレンスがどんな仕事をしているのかを示すシーンなのにそれが少なくなってしまうのでフローレンスの試合の中での役割が薄れてしまっていた。

・(1956) Budapest Is Risingのカット

フレディがフローレンスに「あの出来事を忘れるな」と自分の父親が連れ去られたハンガリー動乱のことを思い出させる歌である。大阪版の演出ではハンガリー動乱の戦車や集団の映像が使われ、「1956,Budapest Is Rising…」から始まる印象的なメロディーが歌われる。フローレンスは自分の過去とアナトリーに惹かれている自分の間に挟まれて悩むことになるが「誰もが誰の味方ではないのだ」と自分が自分自身の味方になろうと「Nobody's Side」を歌う。さて、彼女の過去の部分に言及するシーン。ここが東京ではない。大阪バージョンでは1幕でこの曲があったので2幕でこのメロディーが使われた時にフローレンスの心に過去の影がさすのもよくわかったのだが、それがない。なんなら大阪も東京バージョンもウォルターが元々いない設定なので、彼女の父親を取引として使う伏線もなんのこっちゃいである。

・Someone Else's Storyのカット

このカットが1番あかん。え、なんでカットしたん。アナトリーの妻であるスヴェトラーナがロシアで「私は別の私で、他の人の人生を歩んでいるのかもしれない」と歌うソロ曲である。大阪では確か1幕の後半だったはず。スヴェトラーナの心情や人となりを知ることができる素晴らしいソロである。1曲丸ごとの1シーンがごそっとカットされていたので「役のエリアンナさんの喉の調子とか体調が悪くてカットされちゃったのかな」と思っていたのに2幕で彼女が朗々と歌いあげていたのでますます謎である。これではスヴェトラーナが突然出てきて夫であるアナトリーをひたすら責め立てるだけになってしまうではないか。あとスヴェトラーナはフローレンスに向かって「彼には自由が必要」とフローレンスとアナトリーの関係を否定しないような発言をしていたのに、モロコフに指示された途端「何度チャンピオンになったら気が済むの」とロシアに帰ってくるよう懇願するし、一緒に帰るために空港にアナトリーを迎えに来るしで何がしたいのかさっぱりである。まぁ何をしたいのかがわからないのはアナトリーも同じだが…。大阪で観た時も「物語が乱暴だなー」と思っていたが東京で観た時はどこからどこまでがカットで物語が繋がっているのかがわからなくて「なにこれ誰かのぶつ切りの走馬灯…?」.みたいな感情に襲われることになった。

今回のチェス。ABBAが手がけた楽曲はキャッチーで素晴らしいものでそれらを歌い上げるキャストのパフォーマンスも素晴らしかった。でも、ただそれだけだった。全体をまとめあげる脚本が荒っぽいので全体を通した感動を得ることはなく、1曲1曲のパフォーマンスを思い返して「素晴らしかったな」と思うことしかできない。ミュージカルは音楽、台詞、歌、ダンスなどが統合されて作られる複雑な演劇形式であるが、だからこそ、それらが一体となったときに得られる感動も大きいものである。だが、今回のチェスのようなコンセプトアルバムから始まり、固定された台本がないまま今まで来たミュージカルは不安定であり、今回のような結果になることもあるのだ。音楽もパフォーマンスもダンスも素晴らしかったというのに。

 

各キャストのパフォーマンスや演出で気になった部分はまた追記します。まだ書くよ!サマンサが素晴らしいよ!ラミンも最高だよ!