舞台の映像化について前向きに考える

舞台映像は舞台を超えることが出来るのか。
もしくは舞台作品の映像はひとつの映像作品として形を為すことができるのか。

とある人が言っていたのを聞いたことがある
「生の舞台より映像の方がいいじゃん。役者もよく見れるし。」
別の場所でこんなことも聞いた。
「生の舞台を見ていない人(舞台の映像作品鑑賞組)には舞台を語ってほしくない。」
また別のところでこんな文章を読んだ。
「絶対に舞台の映像化は必要。映像にすれば素晴らしい一瞬を永遠に残すことができる。全世界の人とそれを共有できることもできるんです。」

生モノである舞台の映像化
ファン界隈の中では永遠の議題のようで不定期ではあるが結構頻繁にツイッター上で見かける。ここでは「出してほしい!残してほしい!」というファンの気持ちだったり「出したい気持ちはあるんだよ!?でも赤字にはしたくないじゃん!本当に買ってくれるの!?」みたいな企業と消費者の間のジレンマも垣間見れたりして面白い。で、私は舞台の映像化に大賛成派です。NTlive(ナショナルシアターライブ イギリスやアメリカの最高峰の舞台を映画館で観れるという素敵なイベント)最高。ずっとやってほしい。ビリー・エリオットの映画館上映も持ってきたタオルハンカチがビショビショになるくらい泣いて心を動かされたし、家で見るV6のコンサートDVDだって最高だ。とは言いつつ、生の舞台に勝てるものはないであろうし、むしろ「ここまで面白いのなら生の舞台も見てみたい!」という集客を狙った上映にも思えるが、その辺は鑑賞者の皆様方の受け取り方にお任せするとする。

世界の演劇のトップであるイギリスやアメリカがNTliveに力を入れていたり、グローブ座では上演作品を全世界に配信しているので答えはもう出ているようなものだとは思うが、それでも納得いかないとか説明してほしい気持ちって多分あるんだろうなとも思う。

さて、改めて私の立場を確認すると
最高状態の舞台の映像化はそりゃあもう大賛成だ。
円盤もバンバン出してほしい。関連書籍も出してほしい。
だって、もう「観れない」って悲しすぎるもの。
だからこそ「儚くていい」という意見もあるのも知っているし分かる!分かるけども、何度も何度も反芻させて解読したい勢としては円盤があればとても嬉しいのである。

ではその上は?
ここに私は興味がある。
「舞台の映像化は単なる記録映像で終わってしまっていいのか」という話である。
舞台でもなく映画でもなく舞台の映像化として、2次創作物としての一線を超えることが出来るのか。ここに私は興味があるのだ。

では、ここで私は2本の舞台の映像作品に言及していこうと思う
あくまで私が感じる舞台の映像化の成功例の2つではあるが、結構映像ならではの良さを感じることが出来た。読んだ後に「舞台の映像化も悪くないと思うよ!」みたいになっていただければ嬉しい。

ジュリー・テイモア プロダクション
「夏の夜の夢」
ジュリー・テイモア=ライオンキングの人!という認識。間違えではない。演出家でありながら映画監督でもある彼女が手がけた今作品。シェイクスピア作品で最も華やかでハッピーなはなしとも言われている作品なので粗筋はググってください。最近では宝塚歌劇団でも同じ題材で上演されていた。


トレーラーを見ていただいたらお分かりのように、もうプロジェクションマッピングを駆使した最高の演出(妖精の世界の演出は本当に幻想的で華美で素晴らしい)最高の役者と最高の音楽で最高に楽しくさせてくれる作品だった。完璧。そして何よりこの作品が他の舞台の映像化と大きく違うところが「この作品自体が舞台の映像化」をかなり意識して作られているということだ。以下にジュリー・テイモア来日時のインタビューのリンクと幾つかの引用を記載させていただく。


トニー賞受賞作家ジュリー・テイモア来日! 『夏の夜の夢』Q&A試写会開催



生の舞台を映画として撮影した本作について、彼女は「ナショナル・シアターのライブとは違って、本作は4日に渡って4回のプロダクションを撮影しています。生の舞台を複数のカメラで撮影するだけでなく、配置をコントロールできるように撮影日を数日追加しました。私たちは、動くカメラとステディカムを駆使して、舞台上のエネルギーやダイナミックさを捉え、様々なアングル・クローズアップ・役者のリアクションなど、生の舞台では観客の目が届かないシーンを収めました。カメラはそこら中に配置され、ポストプロダクションでは通常の映画のように編集作業を行い、作曲家エリオット・ゴールデンサールが映画のためだけに音楽を追加することも可能にしました。映画と舞台のハイブリッドと言ってもいいと思います」と話した。

また、撮影技法や編集についても「例えば、タイターニアの長いセリフの時に、カメラはオーベロンの表情と反応を撮っています。実際の舞台では、オーベロンは観客席に背中を向けているので、観客には彼の表情が見えなかったのです。このように、演者のリアクションに対してクローズアップという映画技法が使える点も、本作の強みです。編集には全部で80時間のフッテージを使って10週間を費やしました。


そしてこのインタビューの最後に彼女は
「映画を観る皆さんは一番良い席で「夏の夜の夢」を観られるということなんです(笑)」と締めくくっている。「舞台ではあり得ない最高の席」を彼女たちは舞台を映画化することによって我々に提供してくれている。素晴らしい。個人的に以前プロジェクションマッピングを多用した舞台を鑑賞したことがあったが劇場の構造のために「何が何を映しているの?」と舞台の良さがかえって半減してしまうような経験を持つ私からすればこのような試みは素晴らしいことであるし、充分、私が興味のある「その上」についての答えを提示してくれていたように思う。特に最後のカットはカメラでしか撮れないカットで身震いするほど痺れた。また上映してほしい。というかBlu-rayが欲しい。


劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎
岡田以蔵という幕末に活躍した暗殺者の物語。森田剛さんの演技力が凄まじいので見てね。というのは前置き。この作品はいのうえ歌舞伎というところで歌舞伎要素も取り込まれた演出の作品。「見栄(カーン!という効果音にあわせて役者が身体の動きを止め、首を回すように振って最後にグイと睨んで静止するアレ)」のような動きも沢山あってそういう意味でも面白く鑑賞できる作品ではあるのだが、この見栄の部分が映像だとクローズアップしてくれてよくわかる。で、ちょっと気になってこの「見栄」を調べてみたところ舞台におけるクローズアップの表現らしく、映像だからこそわかる舞台のよさもあるのだなと納得したのがこの作品。2次元画面に3次元空間が収められるのはマイナスかもしれないが寄りと引きが出来るのは映像しか出来ないからだ。


着目点は異なるが映像だからこそ分かる舞台の良さ、発見できる面白さ。というのはあると私は信じている。もちろん舞台の良さは舞台(生で)を観客席で観るのが1番わかりやすく真実なのだろうとは思う。だが世界のエンターテイメントのグローバル化や情報化に追いつけ追い越せと食らいついていくには、もっと積極的に舞台の映像化をやっていってもらいたいというのが私の願いだ。

あと布教しやすいから。うん。