ミュージカル「オケピ!」感想 〜色んなことが気になって演奏どころじゃない〜




ミュージカルを愛するすべての人と、そうでもないすべての人へ


作・演出 三谷幸喜

音楽 服部隆之


公式サイト

http://www.parco-mitanikoki.com/web/okepi2003/


あらすじ

舞台は、ミュージカルを上演中のオーケストラ・ピット。登場人物は、そのミュージカルの裏方でもある指揮者と12人の演奏者。ミュージカルの陰の主役でもあるオーケストラの人間関係模様を開演前からカーテンコールに至るまで、同時進行で描き出す。全編に溢れる音楽に乗せて進行するオムニバスドラマ。ミュージカル本番中のアクシデントを乗り越えてオーケストラはひとつになれるのか?



ミュージカルの裏側を描いたミュージカル、いわゆるバックステージミュージカルでの傑作と言えば「コーラスライン」が挙げられると思う。コーラスライン(バックダンサー)の仕事を手に入れるためにオーディションを受ける人々の話だ。普段ではスポットライトを当てられることのない裏側をドラマティックに描いた作品として高い評価を受けた。私も劇団四季で1度見たことがあるが、とても興味深く面白かったし最後には「ひゃーこれはすごいなあ。おったまげた。」と感動しきりだった。


さて、本作品「オケピ!」も普段ではスポットライトの当たらない舞台の裏側を描いた作品である。しかし、このミュージカルの面白いところは、オーケストラピットという舞台の下側、観客の目の前に確かにいるのにいない(作品のよってオーケストラは舞台の裏側にいうこともあれば舞台の真ん中に堂々といることもあるが)存在を描いている。アンダーステージミュージカルなのである。舞台の上にオーケストラピットがいてその上に架空の舞台があるという構造。そして本物のオーケストラピットも勿論あるので3重構造になっているのがとても面白い。三谷幸喜さんは題材として面白いものを見つけるのが上手いなあと感心した。


物語としてはリアルタイム進行方式で、オーケストラピットのとある1日を描いている。どこか頼りないコンダクター(指揮者)、チャキチャキとその場を仕切るコンサートマスター(バイオリン)、気難しいオーボエ奏者など、各々が個性的で、しかもそれが俳優にぴったりと当てはまっているのがなんともニクい。特に、おとぼけピアノ奏者を演じる小日向さんが、言葉を発するたびに笑いが起こるのは職人芸としか言いようがない。川平慈英さんの超うるさい(褒めてる)キャラクターにも「これだよコレコレ!」と爆笑しながら見させてもらった。三谷幸喜さんは作品を書くときに役者に当て書きをするタイプの劇作家らしいので、それぞれの役者に対して観客が持っているイメージを活かしつつ、作品の中で生き生きと活躍するキャラクターを見事に書き上げていた。テレビや映画で活躍している有名人も沢山出ていて、それだけでもとても楽しい。


台詞劇としても面白く、ミュージカルとしてありがちな「曲はいいんだけどねえ…。」というのも特になく、群像劇として各キャラクターが自分達の日常にしっちゃかめっちゃかしているのがとても滑稽で面白い。あと、ミュージカルという文化を皮肉を込めて歌っていたり、有名な作品タイトルとあちこちに引っ張ってくるのも面白かった。


例えば、

「ブロードウェイでやったからといって良い作品とは限りません」

「まだネコ(キャッツ)とかライオン(ライオンキング)の作品ならまだいいんですが」

「台詞を読めば30分で済むのに何故歌う。歩けばいいのに何故踊る」

「オケピを覗くなサル山じゃない」


といったものである。日本語ミュージカルなので、翻訳ミュージカルとは違って具体的な言葉を歌詞に当てているのも面白かった。翻訳ミュージカルは音の数の制限、原歌詞の意味を合わせるために抽象的な単語を当てはめることが少なからずあるので、三谷幸喜さんの言葉をそのままメロディーに乗せて歌うことの面白さに驚いた。逆に、こうした歌詞を壮大な翻訳ミュージカルに慣れている人は安っぽいと思われるかもしれないが、現実として日常生活を描いた作品なのでこれで正解だと個人的には思う。


日本で、日本語で、日本のスター俳優達で作り上げるミュージカル作品としての完成度はかなり高いように思った。もちろん歌唱力に差があったり、4時間ほどもある上演時間が長いこと(私は自宅で鑑賞したが、劇場で鑑賞した方々はさぞかし腰とお尻が痛かったに違いない)など、ツッコミどころがないとは言えないが、日本という素材、観客を使った作品として私はこのミュージカルが大好きになった。面白いよ!


クライマックスのシーンで、バラバラだった演奏者達がひとつとなって曲を歌い上げ、そして最後には最初のタイトルソングに帰っていくという、ミュージカルソングの方法を取っていたことに対してシビれたし、歌詞ではなく音階(BやG)を歌いながらピョンピョンと跳ねる演奏者達が私にはピアノの鍵盤に見えた。そういえばピアノは1人オーケストラという別名もある楽器なので振付けもそれを意識したものかもしれない。


三谷幸喜が書いた皮肉と笑いたっぷり、そしてホロリと泣かせる人間ドラマミュージカル「オケピ!」とっても面白かった。それがオケピ!


翻訳ミュージカルをやることが多い日本だけれども日本作のミュージカルだって超面白いじゃん!と、また日本のエンタメに惚れ直した作品だった。また見たい。