読んで、見て、楽しむ観劇(Applause vol.2掲載)


読んで、見て、楽しむ観劇


演劇は仕事になるのか?(アルファベータブックス)


 

「演劇は仕事になるのか?」というタイトルに対して「なる」と答える人もいれば「ならない」と答える人もいるだろうと思う。ステージエンタメの興行収入は年々増加していて日本の首都である東京をロンドン、ニューヨークに並ぶ演劇都市と評する人もいるくらいだが、逆に小劇団でなくても公演によっては日々赤字を出しながら上演をしているところもあるくらいで人気がありそうな劇団でも文化庁から助成金をもらって上演していることもある。さて、この本はこうしたお金と演劇、もっというのであれば「ビジネスとしての演劇」と「芸術としての演劇」という演劇が抱えるジレンマを統計や制度の説明を用いてわかりやすく解説してくれている本だ。日本の文化背景が今日のいわゆる箱問題(劇場数の減少や人気劇場の仮押さえが何年も前からされていることなど劇場に関連する問題)についても触れている。どの演劇ジャンルの人にとっても興味深い内容だと思う。例えば、自社劇場を有している宝塚歌劇団が劇場を所有していることによってどれだけの利点があるのかということを改めて考えることができたり、助成金について「なぜ演劇に助成金が必要なのか」という難しい問題についても知ることができる。演劇はお金がかかる。そしてお金を巡る問題は厳しい。演劇とお金の関係って驚くほどシビアです。


アメリカ文化 55のキーワード

ミネルヴァ書房

 


アメリカ演劇ファンだけではなくアメコミやハリウッド映画ファンにも是非オススメしたい1冊である。アメリカを代表する多種多様なキーワードを取り上げ、それぞれについて各専門家(大学教授がほとんど)がコンパクトに、しかしながらしっかりと解説してくれている。大統領、黒人奴隷問題、宇宙開発、ハリウッド、ジャズ、遊園地などなど 55のキーワードの解説があり、そのどれもが読んでいてわかりやすく興味深い。私自身この本を読みながら「あっ、これってこういうことだったのか!」とストンと腑に落ちる体験が何度もあった。キーワード別に収録されているので気になるものだけを辞書のように引きながら読んでもよし、最初から最後まで一気に読んでもよし、項目ごとに分けて読んでもよし(55のキーワードを7つの章にグループ分けしている)、気になる項目をさらに知りたければそこから進んでもよしという便利な使い方が沢山あるのもこの本の魅力だろう。

「アメリカのことを勉強してみたいけれど自分の知りたい情報だけを勉強したい。適度に詳しく勉強したい。」という欲求を満たしてくれる。文化背景や歴史背景を知るのにこれ以上優れた本はないのではないかと思っているくらい私の中でオススメする本である。


イギリス文化55のキーワード

ミネルヴァ書房


 

先ほど紹介した本のイギリスバージョンである。ちなみに中国バージョンやドイツバージョン、フランスバージョンなどもあるので興味のある方は是非読んでみてほしい。そして私に感想を教えてほしい。こちらはアメリカバージョンに比べて学校の文化やシェイクスピア、劇場などについて書かれていて歴史というより文化史について多く取り上げられているなという印象。BBCについての項目があるなどこちらもイギリスならではのキーワードを取り上げているのであの作品やこの作品について関連するものを読んでアハ体験をしてほしい。また、アメリカバージョンとイギリスバージョンを2冊比べながら読んだりするのも面白いと思う。全然違っている部分もあればお互いに影響しあっているアメリカとイギリス。そこから生まれる演劇やステージエンタメはやはり興味深い。私はこの本で BBCが「おばちゃんチャンネル」と呼ばれていることを知ったのでこれから自慢していこうと思う。シェイクスピアからビートルズ、ロンドン塔からパブ、紳士からスパイまで、文化の織りなす物語。古くて新しい、新しくて古いイギリス文化を知ることができる。歴史や文化を学ぶことによって舞台作品に触れたときに自分の知識と感情がリンクするという瞬間を味わうことができる。より深く作品を感じるために勉強するのもなかなかいいもので私はこれらの本を読んで考察や感想がより広く、より深く得ることができるようになった。大きめの書店や大学図書館に取り扱いが多いので是非一度手に取って読んでほしい。

 

 

 

シアタードロップス 小劇場の友

(青山出版社)


 

俳優はもちろん、制作、美術、照明、衣装、音響など舞台に関わるありとあらゆる人達の生の声を集めた1冊である。普段意識することがない限り目にしたり耳にすることがない、いわゆる裏方さんの声がここまでリアルに書かれている本はあまりないと思う。この 1冊でおおよその舞台ができて終わるまでの流れ、それぞれの立場の人間がどんなことを考えてどんな仕事をしているのかがざっくりではあるがわかるのもありがたい、また、少し古い(とはいっても2001年初版なので 15年ほど前)ので今をときめく劇団☆新感線がこんな風だったのか。ということを知ることができたり女優や俳優紹介欄のページは今となっては色んな作品に引っ張りだこになっている人達が紹介されていてそこも面白い。「小劇場の友」というサブタイトルにふさわしく、小劇場らしいゴチャゴチャした内容の本ではあるが寄稿している誰もが舞台や演劇を心から愛して楽しんでいるのがよくわかる。芝居はこれだから面白い。

 

余談にはなるが、演劇や舞台に関する本は大きな本屋さんではないと扱っていないことが多く、廃版になっている本もとても多いので大学図書館や県立図書館に行く方が手っ取り早いと思う。また演劇を文学的面から論じている本も沢山あるので自分が興味のある本について図書司書に聞いてみるのも手だ。シェイクスピアを読んでみるもよし、自分の見た作品の戯曲を読んでみるのもよし、楽譜を読んでみてもよし、写真集を見てもよし。舞台をさらに楽しむための読書は楽しい。( KiE



本文章は舞台・演劇関連アンソロジー「Applause vol.2」にて掲載している文章と同じものになっております。Amazonのリンクを貼った方がより皆様に本を手にとっていただけるかなと思い、こちらの記事にて公開しました。