舞台「黒蜥蜴」感想 〜 美しい悪夢が闇に漂う 〜

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公式サイト 『黒蜥蜴』特設ページ 梅田芸術劇場

 

梅田芸術劇場メインホール

2018年2月3日 12時公演

 

演出 デヴィッド・ルヴォー

原作 江戸川乱歩

脚本 三島由紀夫

音楽 江草啓太
音響 長野朋美
衣装 前田文子

あらすじ

有名なので省略

 

感想

黒蜥蜴といえば以前に宝塚歌劇団によるもの(『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴(トカゲ)』『TUXEDO JAZZ(タキシード ジャズ)』 | 花組公演 | 宝塚大劇場 | 宝塚歌劇 | 公式HP )を見たのと、美輪明宏の代表作であるということくらいしか知らなかったのでどちらかといえば三島由紀夫よりも江戸川乱歩の方に知識が偏っている状態で鑑賞した。

 

美術や衣装はモノトーンを基調としていて全体的に退廃的な雰囲気を全体にまとっているのでなんとなく昔のモノクロ映画を見ているような印象を受ける。退廃的なその世界は花弁が落ちる直前のドライフラワーのような美しさだった。特に黒蜥蜴のまとう衣装がどれも本当に素敵でそれを着こなしている中谷美紀さんの佇まいの美しさときたら。その中で唯一カラフルになるのが屋敷の台所(召使いたちの雑談の場になっている)だが、その中でメインキャラクターは登場しない。彼らはある意味ではファンタジーの住人でモノクロの世界の中でそれぞれの美学を追求する芸術家でしかない。黒蜥蜴は死んでいるものを愛する(唯一の例外は明智小五郎であるが)芸術家で明智小五郎は犯罪を愛し、早苗は夢物語を愛し、雨宮は嫉妬や束縛を愛する芸術家である。己の美学を追うあまりそれぞれの倫理観がどこか俗世間の望むものから欠落しているようだ。

 

今作品では明智小五郎はヒーローではなくダークヒーローでもなく平和や退屈を嫌う、犯罪を愛している私設探偵でしかない。いわゆる犯罪を解き明かしていく痛快サスペンスとは全くの別物で見ようによってはあまりにも不親切といってもいいほど説明がなく、探偵と犯罪者という格好の登場人物がいるのに推理劇の要素を切り取り、あくまでも黒蜥蜴と明智小五郎ラブロマンスとして仕立て上げている。現実とはあまりにもかけ離れたキャラクターや設定、ストーリーをそれでも受け入れられるのはその世界観をファンタジーとして完全に作り上げているからであり、日本が舞台の作品だからといってリアリティを出すために凝るのではなく幻想的で耽美な世界観に重点を振り切っていたのがよかったと思う。舞台中心に位置する盆の使い方もわかりやすく黒蜥蜴と明智小五郎の2人のシーンだけ反時計回りに回転することからこの2人が時間すらも超越した存在であることがわかる。現実も観客も何もかもを置いていく2人だけの世界であると。また棒を使って船を表現しているのが面白く、曇りガラスを使って見えそうで見えないキャラクターを想像させる演出もエロティシズムを感じですごくよかった。ただ主演の2人である中谷美紀さんと井上芳雄さんのアクの強さがもう少しあればもっとよかったと感じたのかもしれない、とも思ったことも書いておく。ヒーローではない明智小五郎トリックスターとして舞台を振り回し観客も混乱させる役割を担っているのでもっと嫌味な奴で浮いててもいいのになと。井上芳雄さんの演技が悪いというわけではなく(むしろよかった)、彼自身が好青年さのある魅力の持ち主なのである。逆に成河さんが演じる雨宮のアクの強さが濃く、作品自体のクライマックスがラストの黒蜥蜴と明智小五郎のシーンではなく雨宮と早苗(仮)のシーンになっていた。舞台空間の大きさとキャラクターのパワーバランスの調整の仕方をどうこの戯曲を使って取っていくのかが難しそうだ。

 

全体の雰囲気や世界観は好みで解釈の仕方も好きだったけれど梅田芸術劇場メインホールと三島由紀夫戯曲の相性はあまりよくないのかもしれないと思った。

 

短いけど終わり。よい2018年観劇始めでした。