初対面の人が恋人になるまで自分が飲んだアルコールの量について考える

1回目(初対面)

梅酒ロック、梅酒お湯割、白サングリア 1杯ずつ

赤サングリア 2杯か3杯

学生時代の友人と久しぶりに飲もうという話になって仕事終わりに居酒屋へ行った。久しぶりだね。前に会ったのいつだったっけ。そういえば今どこで何して生きてるの。そのレベルの話かよ。そんな話を笑いながらして美味しいお酒と肴でいい気分になる。段々と会話が盛り上がってきた頃に友人から恋人ができたこと、その人は私の知人であることや近々同棲することを告げられた。おーまじか。そうなんだ。おめでとう。どこで出会ったの。あれやこれやと聞いてみる。なるほど、ラブラブらしい。よきかな。それから将来への不安や不満を少しずつ漏らす友人にとりあえず「いいじゃん!」と返す。いいと思うよ。いいなあ。羨ましい。

「だってさあ、私なんてずっと恋人もいなければ恋愛だってしてきてないし基本的に1人行動だから誰かと一緒にいる時間を大事にできてないと思う。」

しまった。本音が出てしまった。と思ったときにはもう遅く、そこから私の私による私の人生の懺悔ショーを始めてしまった。今すぐに恋人が欲しいとか結婚したいとかではなくて家族や友人以外に心の拠り所となる人が欲しい。今の自分を不幸だとは決して思わないけれどやはりパートナーがいる人を見ると羨ましいし自分に何が足りてないのかと羨んでしまう。でも私はかなり性格に難アリだと思ってるし可愛げがないこともよくわかっている。毎日が楽しいけれど、どこかで寂しい。そんなことをずっと話してしまった。友人は実に素晴らしいタイミングで相槌を打ちつつ私の話を聞いていたが、聞き終わると思いっきり首を傾げた。そして傾げたままこう言った。

「あなたはあなたのままでいいと思うけど。」

そんなことあるか。私は社会不適合者だ。と酔いに任せて言う。うーんと友人がうなる。一瞬の間。

「あ、いるわ。紹介したい人いる。」

彼氏候補とかじゃなくて友人として仲良くしてほしいなって前々から思ってたの。多分今呼んだら来るよ。呼んでいい?そう言いながら携帯を取り出して電話を始めた。

よくわからなかったので即了承する。大体こんな遅い時間かつ飲み会も終盤に差しかかっているというのに来るはずがない。次回持ち越しが妥当だろうと思った。

電話から30分後。来た。ほんとに来た。「こんばんはー」とか言われた気がする。ありえないと思った。私ならまず断る。知っている人だけがいるならともかく知らない人がいるところにこんな夜中に呼び出されて行くなんてフットワークの軽さどうなってんだ。どれだけ暇なんだこの人。第一印象に「暇な人」というスタンプを心の中で押す。乾杯をするためにドリンクを注文する。私も友人もある程度出来上がっているので挨拶もそこそこに私の人生懺悔ショー第2部を開始してしまう。学生時代に先輩後輩の関係を築いてこなかった。部活に真剣に打ち込まなかった。大学時代にサークル仲間で富士山登ったり海に行って砂浜に字を書いてインスタグラムに投稿したりしたかった。「いつメン」とやらでドライブとかもしたかった。みんなと違うことを誇りにしていたけれどそれはしないのではなくできないだけだった。初海外旅行を1人で行って舞台を沢山見たことは私の誇りだけど仲のいい友人たちとグアムとかハワイに行くみたいなことを私は出来なかった。とわめく。初対面の人は困り顔で笑いつつ、時々大声で笑いつつ(「じゃあ今なにしたいの?」と彼に聞かれたときに「ロンドンに行って舞台を好きなだけ見るかジャニーズのコンサートに行くか道端に落ちている大沢たかお松坂桃李を拾いたい」と即答したら爆笑していた)、辛抱強く私の話を聞いていた。そして困り顔のまま彼が口を開く。


「それなら今から一緒にやっていこうよ。全部やろう。」


マジかよと彼の顔を見る。隣にいる友人の顔も見る。2人とも笑顔だった。

いい人だ。こんな人たちに出会えたということは私の人生も案外悪くはないのかもしれない。

 

2回目

白サングリア 500〜700mlくらい

例の友人に「トランプしたい」と連絡する。二つ返事で了承される。しばらくして友人から初対面の人もトランプをやりたがっていると聞く。ならみんなでやろうではないか。そんな流れになり、友人の恋人も加わって4人でトランプをすることになった。初対面の人と会うのは1ヶ月ぶりくらいなので喜ぶ。いい人だと思っている人に会えるのは男女年齢問わず嬉しいものである。最寄り駅まで迎えに来てくれた友人と初対面の人に「久しぶり」「久しぶりだね」というやり取りをしてそのまま友人宅へ向かう。既にトランプパーティーの用意はされていてピザやらポテトやらケーキやらがテーブルの上にずらりと並んでおり、友人に「好きでしょ?」と白のサングリアが入ったグラスを手渡された。実に素晴らしい。なんとなく友人の恋人を見ると「車で送ってあげるから好きなだけ飲んでいいよ」と言われた。ありがたき幸せと感謝しつつ好きなだけ飲む。さぁ、やろうぜやろうぜとトランプをする。大富豪とダウトと神経衰弱をやったような気がする。どれも7割くらいの確率で私が負ける。悔しい。もう一回やってもらう。負ける。悔しいので初対面の人に私が得意なスピードをやろうと持ちかけると快く受け入れてもらった。私が勝つまで付き合ってもらう。やはりいい人である。初対面の人に帰りの車の中で「今度連絡先教えてね」と言ってもらう。社交辞令だろうなと思いつつも内心ニヤニヤした。


3回目

白ワイン ボトル7割くらい

これ以上会うと初対面の人を好きになってしまうのでは。と思い、ということは既に好きなのでは。いや、好きじゃん。恋じゃん。なにそれ、2回しか会ったことないのに。まだどんな人かも知らないのに。フルネームさえもまだ知らないのに。と1人でアタフタする。友人から「また4人で飲もうよ」とメッセージが来たので「行く」と即答した後に「私は彼のことが好きかもしれない」と送信すると「いいと思います。じゃあ来週ね」と返事が来た。ソワソワしながらその日を待った。仕事終わりに友人宅で飲むらしいので友人と初対面の人、 訂正、友人と好きな人とスーパーへ向かう。「食後のデザートを果物かプリンで迷ってる」と好きな人に言うと「両方買ったらいいよ」と言われ、完全に惚れる。え、なんでもない日にデザート2種類も買ってもいいの?あぁ、そうか。よかったんだ。にしてもこの人すごいな。私にはない視点で物事を考えてる。好きな食べ物を沢山買い込んでいっぱい食べて飲んだりして、好きな人が隣にいることがあまりにも幸せだったので「あー幸せ」と呟くと「わかるけども」と好きな人が笑いながら言ったのでもうダメだなと心の中で白旗をあげる。完敗です。


4回目

白ワイン1杯、赤サングリア4杯くらい

日本酒 覚えてない。本当に覚えてない

なんとなく恒例になった4人の飲み会に向かう。今回は居酒屋らしい。好きな人が1人で迎えに来てくれたので「友人は?」と聞くと「なんかAさん(友人の恋人)が家で用事あるから後で2人で来るって」とのこと。なんだ、ただの段取りの問題かとガッカリする。初めて2人きりになるので色々と話す。仕事は何をしているの?とか、どんな子供時代だった?とか。居酒屋に着くと既に友人カップルが入り口で待っていて「遅い!」と開口一番に言うので謝る。あれ、あとで来るんじゃなかったの。座席に着く。疑問を抱きつつまぁいいかと乾杯して飲む。空きっ腹にワインを流し込んだので胃の中がカッと熱くなるのがよくわかった。あー、これは酔うなぁと思った。でもまだ大丈夫だろう。1杯目だからそう思うだけだろう。Aさんが刺身の盛り合わせを頼んだので日本酒も頼んでほしいとお願いする。冷酒と刺身の組み合わせは至高である。逃さない手はない。ついでにタコワサも頼む。テーブルに料理と日本酒が運ばれてきたので「天国か」と言うと隣で好きな人が「そんなことで!?」と笑っていたので「そんなことじゃない!」と噛みついてしまった。今思えば既に酔っていた。学生時代の話に花を咲かしているとお店もどんどん賑わってきて忙しくなってきたのか頼んだ料理やドリンクの運ばれてくる時間がかなり遅くなっていった。テーブルの上には空の皿とグラスがあるのみである。どうしようかねぇと作戦会議をした後、トランプをやろうという話になった。カバンからトランプを取り出す友人を見てなんで常に持ってるんだというツッコミがあちらこちらから入ったが友人は素知らぬ顔でテーブルの上をキチンと片付けてトランプを配り始めた。お店の迷惑にならないようにねと私たちに約束させながら。

おかしい。負ける。何度やっても負ける。何をしても私が負ける。手札を減らしてもらったり強いカードをもらっても負ける。悔しいやら情けないやらでヤケになって飲む。負け続けるので飲み続ける。おかしい。世の中は不平等だ。とか言いながらテーブルに突っ伏していたらようやく追加の料理が運ばれてきたので日本酒のお代わりを頼む。あとなんか色々と頼む。後から聞いたらこのときの私は既に泥酔していてAさんに対して「友人と付き合っているAさんは幸福なんだから大事にしないと絶対許さない」とか「楽しすぎて今この瞬間死んでもいい」とか言っていたらしい。怖い。そろそろ帰りますかとお開きになり、好きな人が途中まで送るというので遠慮なく送ってもらうことにする。友人たちは気づいたらいなかったので気を使ってどこかへ行ってくれたのだと思う。酔っているので何を聞いても「あのときは酔ってたから覚えてない」を使えるのではと泥酔の頭でひらめく。

「今現在恋人はいますか。」

「いません。」

あぁ、よかった。本当はよくないのかもしれないけれどとにかくよかった。すっかり安心してしまったのかそこからの記憶がほぼない。帰宅して5秒で寝たことくらいしか覚えていない。次の日に頭痛で目覚めたのでかなり飲んでいたことらしいことはわかる。

 

5回目

アルコールなし

ふとなんとなく思い立って好きな人にもっともらしい用事を作って「会えませんかね」と連絡すると(やっと連絡先を交換した)、その日に会うことになった。2人で会うことを目的に2人で会うのは初めてなので困惑する。失言したらどうしよう。フォローしてくれる友人たちもいないしアルコールもないし、というかまともにシラフで会うのこれが初めてってひどくないか。心拍数がえらいことになっているのを自覚しながら待ち合わせ場所に行くと好きな人が待っていたので安心する。どうやら飲み会ではそこまでの失礼はしていないようである。用事を済ませて別れたすぐあとに彼の持ち物を私が持っていることに気づく。慌てて連絡。

「今度渡すからいい?」

「あ、まださっきの場所にいるから持ってきてほしい。」

「了解。」

ぐるっと回れ右をして歩いてきた道を戻ると彼が歩いてくるのが見えた。待ってればいいのに。そんな風に思いつつ彼のところまでようやく到着する。彼の顔を見ると何故かずっとニコニコしているのでこちらとしては頭の中が疑問でいっぱいである。そんな大切なものだったのかな。いやいや、どこにでも売ってるやつだしそれはないだろう。じゃあ、なんだ? ニコニコしたままの彼がこちらを見たまま言う。

 


「この前の飲み会の帰りのこと覚えてる?」

……はい?


「『今かなり酔ってるから真剣に取り合ってもらえないと思うので、今度シラフで会ったらちゃんと告白させてほしい』って言ってた。」

え、本当に覚えてないの?と続けられた。

……。


さっぱり覚えてない。覚えてないから覚えてないのだ。というか何言ってんだ私は。最低か。いや、最低だ。何やってるんだ。全世界の人々に謝罪しろ。今すぐ舌を噛み切るか例の飲み会の席に座っている私にバケツで水をかけてそのまま滝行させたい。いや、ほんと何やってるの?馬鹿なの?馬鹿じゃん。大馬鹿じゃん。


頑張れ私の脳よ。思い出せ。1ミリでもいいから思い出せ。振り絞れ。


…言ってた気もする。言ってない気もする。言ってないことにしてほしい。


「言ったかもしれません…。」

やっとの思いでそう言った。

恥ずかしすぎる。なんだこの状況。恥ずかしいので下を向く。地面と自分と彼のつま先が見える。このまま私自身が地面に浸透していって消えないかなと思う。日本酒よ、さらば。お前とはもうお別れだ。金輪際日本酒は飲まない。でもそうしたら全国の酒蔵が困ることになるかもしれない。それは私も困る。


顔を少しだけあげてチラリと彼の顔を見ると初めて会ったときのように困り顔で笑っている。ちくしょう、好きだと強く強く思う。少し間、沈黙が流れる。

「どうする?」

と言われたので覚悟を決める。なんだこの公開処刑。私の今まで培ってきたプライドはどこへ行ったんだ。大学生でもまだもっとマシな告白をしていると思う。死ぬほど恥ずかしいし情けないしなんか各方面に申し訳ない。もうどうにでもなれ。


「恋人にしてください。」

頑張った。頑張ったよ私。直接会って告白なんて今まで生きてきてしたことなかったよ。というか既にしてる?なんだこれ。この人はいい人なので少なくとも友人たちの間でこのことをネタにしてからかったり笑ったりしないだろうし、私を振るにしても振らないにしても真摯に取り合ってくれるはずだから大丈夫。きっと大丈夫。あとで私も人を好きになって告白したことくらいはあるのだと己の人生のページに書き込もう。


色んなことが脳内でごちゃごちゃに絡まったまま下を向いていると声が降ってきた。


「こちらこそよろしくお願いします。」


え、マジで。マジか。

舞台オタでジャニオタで初対面の相手に「大沢たかお松坂桃李を拾いたい」と言い放ち泥酔したあげく「今度会ったら告白するから待ってろ」みたいなことを言う人間ですよ? え、マジで?マジで?いいの?いいの!?

 

そんなわけで好きな人が恋人になった。一緒に過ごした時間は24時間もなかったし2人でいた時間は3時間もない。その時間の中でも私がアルコールを摂取していない時間の方が少ないというありさまである。ひどい。後から聞いた話だが私は飲み会の帰りの道中で彼にずっと「好きです」と言っていたらしく(覚えてない)、彼としてはアルコールのせいで私が思い上がっているだけなのではないか。酔っているから自分が魅力的に見えているだけではないのかと不安だったらしい。だから聞いたのだと。


まとまらなくなってきたのでまとめる。


おかげさまで毎日が死ぬほど楽しい。

アルコールは適量に。