ミュージカル「Forever Plaid」感想



先日「ミュージカルは突然歌い出すから恥ずかしい」という問題に触れた記事を書いた( http://blog.livedoor.jp/kkkkietveit/archives/1054650908.html )。それについて私はミュージカル「コーラスライン」「ジャージー・ボーイズ」を例に挙げ、ミュージカルにおいて「突然歌い出す問題」は、もはや問題ですらなくなっていると書いた。だが、ミュージカルに苦手意識を持っている人は数多く、観劇人口を増やすためにはどうしたらいいのだろうと私は勝手に頭を悩ませていた。そして、今回ミュージカル「Forever Plaid」を観て頭の中の霧が晴れたような気がした。このミュージカルならミュージカルを食わず嫌いしている人達にもきっと楽しんでもらえると思う。

ミュージカル「Forever Plaid」はオフブロードウェイで1990年に初演された。男性4人のサウンドグループ「フォーエヴァー・プラッド」がオーダーメイドのステージ衣装を車に乗って取りに行く途中に交通事故に遭い全員即死、何故か彼らの意識が戻ると2016年のステージ上にいた。生前実現できなかったライブを成功させるべく4人は歌い始める。というあらすじ。物語としても作品の構成もとても単純ではあるが観ていて「上手いなあ」と唸るほど作り込まれた作品だった。ライブ形式で観客は彼らのライブを観に来ていることになる。ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」と同じスタイルといえばわかりやすいだろうか。第3の壁の向こうに我々も参加できるのである。本物のライブよろしくパフォーマンスとMCが組み込まれ、観客を舞台にあげたりもする。よって普通に1グループのライブとして観ても面白い。それに加えて彼らはミュージカルのキャラクターとして舞台上にいるのでMCは脚本に書かれたもの(決められたもの)で進んでいく。この脚本書かれた会話内容が秀逸で、また絶妙なテンポと間合いで繰り広げられるので何度もゲラゲラと笑わせてもらった。舞台上の笑いとは脚本、役者、観客の3要素によってもたされるものなのだと改めて実感できた舞台だった。

先ほども言及したが、このミュージカルはライブ形式であるので「ミュージカルは突然歌い出す問題」には一切当てはまらない。それに加えてプロットの秀逸さ、演者の演技力、パフォーマンス力の高さが見事だった。また、海外ミュージカルを日本で公演する場合にどうしても出てくる人種の違いなどの問題もこの作品では解決していたように思える。ミュージカル「コーラスライン」「ウェスト・サイド・ストーリー」では人種問題は避けられない。つまり、どうしても黄色人種が人口の大多数を占める日本では限界が生じてしまう。ヨーロッパの煌びやかな貴族の衣装を着る日本人演者に違和感を感じる観客も少なくないだろうと思う。もちろん肌や民族の違いよりも各個人の差の方が大きいことはわかってはいるがそもそもの産まれ育ってきた環境、つまり土台が違うのでそこは超えられない問題だと思う。かといって海外ミュージカルの日本公演に無理やり白人や黒人をキャスティングしたりするのは違うとも思うので難しい。そんな問題を抱える日本の海外ミュージカル事情ではあるが、本作品「Forever Plaid 」では「男性4人グループ」という設定さえをクリアしていればいいので日本で行うのにはピッタリの作品ではないかと感じた。ちなみに4人のキャストは川平慈英長野博松岡充、鈴木壮麻という年齢も見た目(アメリカのカンパニーの舞台写真を見たがある程度見た目が統一されている)も経歴も全く異なる4人だが違和感なく、むしろこの4人だからこそ生まれる化学反応が面白いと感じた。

1950年代のアメリカのヒットチャートを歌うので聞き覚えのある曲も多く、幅広い年代に楽しめるのではないだろうか。あと私は「エドサリヴァン・ショー」の単語が出てきた時には心の中で小さくガッツポーズをしてしまった。(アメリカのテレビ史を代表するバラエティショー番組。1948年〜1971年に放送され絶大な人気を誇った。)ブロードウェイミュージカルのスター達も数多く出演した同番組はブロードウェイの観劇人口を増やすのに大きく貢献した。このことをこの前知ったばかりだったからである。少しずつではあるがニヤリとしてしまう小ネタも散りばめられているので是非色んな人達に観てほしい。

翻訳、訳詩もよくできていたと思う。オープニング曲「格子縞の神」では厳かな雰囲気で蝋燭を持った4人が静かに歌いながら登場するのだが最後の歌詞がなんと「ショボーン」なのである。ショボーンショボーンと歌う彼らはまさしくショボーンとしていて可愛らしい。死んじゃったよ僕たち。みたいな顔をして落ち込んでいる。ショボーン。特に気に入ったのはこのショボーンだが他の曲もわかりやすく聞き取りやすい訳になっていて良かったと思う。あと会話も面白い。

「とある無名の男性4人のコーラスグループが成功することも叶わず交通事故で死んだ」から始まる本作品はあらすじだけ一見するととても暗い作品に思われるかもしれないがれっきとしたコメディミュージカルで死んでいる彼らは生き生きと明るく面白くステージで動き回る。MCやナンバーパフォーマンスで彼らの心情やキャラクターを表現し、ライブとしても面白く、筋書きもしっかりしている良質な作品だった。

ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のようなライブ形式(観客参加型)のミュージカルを好きな人には是非お勧めしたい。特にミュージカル「ジャージー・ボーイズ」とは似ている部分も多く(男性4人のサウンドグループが出てくるので音楽的にも似ている)、逆に「とあるサウンドグループが成功するまでと成功したあとの舞台裏と表を描くジャージーボーイズ」と「とある無名のコーラスグループが無名のまま彼らの夢であるステージ(表)を描くForever Plaid」を比較してみても興味深いと思う。

全国ツアー公演でこれからも東京や各地方でも公演されるので機会のある方は是非観てほしい。

実を言うと「V6長野博さんが見たい」という思い、いや欲望のみで観にいったが(長野博さん実在してた感動した)それ以上に得るものが多い公演だった。楽しくて面白くてホッコリしてじんわりする良い作品、良いカンパニーだった。もう一回観に行くので実に楽しみである。

余談1
「Forever Plaid」の感想や劇評を探して読み漁っても「ここが可愛かった」「今日はアドリブが多かった 」のようなレポ記事が多く、舞台作品としての評価やカンパニー全体の話をしている人がほぼ皆無だったので少し残念だった。レポ記事を批判しているわけではなく、この作品は舞台作品としてもよくできていると思うし日本公演版のアレンジも上手くいっているので、その感想を読んでみたいと思ったから。そのへんよろしくお願いします。というか書いた。自分で。

余談2
拍手しすぎて手から出血した(手が荒れていて手のひらの皮膚が破れかけていた→拍手しまくる→割れる→出血)。終演後、外を歩いていて自分の手のひらを見たら血で全体が赤く染まっていたので驚いた。ハンドケア大事。