劇団四季「美女と野獣」感想 〜諸君、私は美女と野獣が好きだ 〜


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友人が以前、劇団四季「ライオンキング」を観劇してとても感動したらしく、「美女と野獣も見てみたいから一緒に行こう!」と誘ってくれて観劇した。この友人はいわゆるミュージカルファンでも演劇ファンでもなく、どちらかというとバンドが好きで自身もバンドを組んでライブハウスで演奏していたりするような人物なので彼女に誘われたときには結構驚いた。
「ライオンキングが!すごいの!」
「ほう。どのように」
「なんかねゾウとかキリンとかすごいの!」
「ライオンどこいった」
彼女いわく舞台美術や衣装を見るのがとても楽しいらしい。なので「美女と野獣も絶対楽しそうだから観たい!」とのことだった。つまり彼女の観劇に付き合った形になったわけだが、むしろこっちが「誘ってくれてありがとう」と感謝してしまうくらい私にとって素敵な観劇体験になった。ありがとうM氏。また行こう。

感想
言わずもがなヒットしたディズニー映画「美女と野獣」の舞台ミュージカル化である。ディズニー社が本格的にブロードウェイに参入した初の作品であり、初演当時は「ミッキーがブロードウェイに来やがった」のような冷たい反応だったらしい。ミッキーかわいそう。しかし私も動画サイトで「美女と野獣」のパフォーマンスを見たときに正直いうと少しシラケてしまったというかベルとビーストのコスプレをした男女が歌い踊っているようなものにしか見えず、今回の観劇も大して期待はしてなかったというのが本音であった。さらに私はディズニー映画の中でも、というより数多くある映画の中でも「美女と野獣」はオールタイムベストに入るくらい本当に大好きな作品で、物心ついた頃から漠然とこの映画を愛してやまなかったし今でも愛している。家にあったビデオテープはブツブツと映像や音声が途切れるようになってしまったほど繰り返し見た。読書が好きなベルのことを勝手に自分自身と重ねて(昔は読書少女だった)、共感したり、あの有名な2人だけの舞踏会のシーンも見るたびに胸がしめつけられるほどトキめく。ベルが着ている黄色のドレスを着たいと何度思ったことか。「将来、私は結婚式であのドレスを着るのだ」と予定もないのに決めたりしていた。今思えば夢見る少女の可愛らしい話だが当時の私は本気だった。いや、実をいうと今でもちょっとだけベルに憧れている。そんなわけで、作品がよく出来ているからとかメッセージ性が好きだとか、そういう理由をすっ飛ばして、もはや本能レベルの「好きだから好きだ」という感情で映画「美女と野獣」が大好きだ。次に書く感想はそんな私が書くものなのでその点ご留意いただきたい。

アラン・メンケンによる素晴らしいナンバーメドレーのオーバーチュアが流れ、幕が上がるとそこには憧れてやまない「あの世界」があった。アニメ映画のミュージカル化ということで観客が既にイメージを持っているビジュアル面をどうしていくのか。舞台美術をどうするのか。という問題があると思うが、このミュージカルはまさしくその点に特化しているといってもいいくらいだった。例えば、変に家のセットを木造っぽくリアルに作り上げるのではなく映画のイラストっぽさを残したセットで、見る人によれば安っぽいというかお遊戯会のような印象を受けるかもしれない。だが、それでもいい。私が愛している世界が、目の前に存在している。同じ空間であのキャラクター達があの衣装を動いている。好きな歌を歌ってくれている。そういう感動が常にあった。幼い頃にあった「あの世界に行きたい」という願いをこの歳になってこういう形で叶えてくれるとは思ってもみなかった。もう映画のシーンが出てくるたび(舞台版でしかないナンバーなどがある)に嬉しくて嬉しくてポロポロと泣いてしまった。ちなみに2人の舞踏会のシーンは滝のように泣いた。最高だった。

劇団四季美女と野獣」の宣伝で「大人も子供も楽しめる」という謳い文句があったように記憶しているが実際には「子供とかつて子供だった大人達も楽しめる」作品だったように思う。私にとっては自分の中に抱えるインナーチャイルドを全肯定してくれるようで、なんかもうこの作品で精神的に救われた部分が確実にあった。ありがとう劇団四季。ありがとうディズニー社。

映画版と違って家来達(ポット夫人やルミエールなど)のナンバーが2曲追加されていた(リニューアル版の映画DVDでは収録されているらしい)のでどちらかというと「美女と野獣」ではなくて「美女と野獣と素敵で愉快な仲間たち」になっていた。また、ベルとビーストの関係も幼い頃は「素敵なお姉さんとちょっとワガママだけど本当はやさしい王子様」と思っていたが、舞台版ではまるでティーンエイジャーの恋愛のようで男女の距離感がわからずにヤキモキしたり少しずつ近づいていく様子は見ていてとても可愛らしく、周りの家来達と共に「ビーストくん頑張ってー!」と応援しつつ、「私も大人になっちゃったんだなあ。」と感慨にふけったりしていた。

原作がディズニーのプリンセス映画であることや、原典がフランスの童話であることから「いや、ダメだろ」とツッコミたくなるような描写は沢山あるのは仕方ない。特にたいした理由もなく殴られるガストンの家来や、DVを思い起こすようなガストンの数々の行動はやや嫌悪感を覚えるレベルだ(作品の中の悪党としては、性格の悪さというより男性の横暴さのイメージを前面に出したようなキャラクターなので)。

舞台作品としては1幕と2幕で主人公のベルのウチとソトが入れ替わっていたり、善と悪が入れ替わっていて興味深い構成だった。1幕の終わりのナンバーはビーストが改心するナンバーでこれをきっかけに舞台の中にある対極の位置にあったものが入れ替わるのだ。1本の映画をどうように分割するのだろうと思っていたが新たなナンバーを挿入してビーストに改心させるというドラマ性を加えた上で切っていたので特に違和感もなく見ることが出来た。

舞台美術に特化して力をいれることによって脳内イメージを補完することなく、逆に観客が共有している脳内イメージの舞台による完全再現と各人物像をクッキリと浮かび上がらせてくれるのは見ていてシンプルに楽しい。超楽しい。

ただ、先にも書いたが見る人によっては舞台セットや舞台衣装がお遊戯っぽく見えてしまうかもしれないし、最初のオーバーチュアやボーイミーツガールなプリンセスストーリーはロジャース&ハマースタイン時代のミュージカルを思い起こさせるようなものでもあり、この作品の目玉とされる「おもてなし」のナンバーはレビューショー仕立てになっていて私はとても楽しめたが、少し古臭いと感じてしまうような人もいるかもしれない。でも私は好きだ。だって!「美女と野獣」が好きだからー!!

内容とビジュアルがほぼ確定しているようなディズニーミュージカルを今までなんとなく「(知ってるし)見なくてもいいかな」と思っていたが、今回の観劇を経て「こんなに素敵な観劇体験ができるなら違うディズニーミュージカルも観てみたい!」という思いへと変化した。アラジンも見たい。ライオンキングも見たい!

個人的に思い入れが強く、普通にミュージカルを観にいくのではなく過去の幼かった自分と対峙するようなエモーショナルな観劇であったが、それでいいのだと思うことにする。そもそも観劇体験などの芸術鑑賞は一個人と作品という関係性のもので、とても個人的なものだと(同時に半匿名の集団である観客と共に共同幻想を見ることによって所属の欲求を満たしたり、アイデンティティの再確認をすることもできるものだとも)思っているのでこれでいいのだ。よし。

夢と希望が詰まった宝箱を開けて見せてくれるような素敵な体験をさせてくれるミュージカルだった。やっぱり動画で見るのと生で見るのは違うのだなと思った。当たり前だけども


あ、ベルの人とビーストの人がとてもよかったです。あの世界に本当に住んでた。

ほんと美女と野獣大好き一生大好き